金木犀の香。
それは私に毎年同じ記憶を蘇らせてくれる。

もう、随分と遠くなってしまった30数年前。
私は書の手ほどきを受けるため師の家に向かっていた。
少し緊張しながら自転車を降りたとたん、
私は金木犀の香りに包まれた。

以来、金木犀の季節になると師の家の門に自転車を止めた
あの時を思い出すのである。
すべて鮮明に。

その時を思い出すと何故か物悲しいのである。
眩しい夏から晩夏。慌ただしく終る9月。
すると、ある日突然、金木犀が香ってくるのである。

ある日突然という香り。
それは私を悲しくさせる。

なぜ悲しいのだろうか。
なぜなのだろう。

私は30数年前の記憶をたどりながら考える。
毎年毎年考える。

多分これは私が金木犀の香りをキャッチ出来なくなるまで続くのだ。

大宮なんぎん物語
埼玉県下随一の繁華街、大宮南銀座。かつて見晴らし通りと呼ばれていた昭和26年頃からの光景・・・
山田とも子=つぶやき