ルーツ 暦を読んでいる父に訊いた。「祖先はどういう人だったの?」 私は誰もが自分のルーツを知りたがる年齢だった。 父は暦のページを見ながら言った。 「どういう人とは?」 「私のルーツ。お友達と話し合うことになっているの」 「悪いことをしないなら何でも良いじゃないか」 父は普段から人と話すのが面倒なのではと思うくらい無口である。 「何の仕事をしていたの」私は諦めない。 そんな私に父はボソッと言った。 「馬賊だ」 その後は何があっても口を利かないぞ、とでもいうように暦をめくった。 馬賊。 山賊みたいだ。 次の日、母に訊いた。 「祖先はどういう人だったの」 母は里芋の皮を剥いていたが、その手を止め嬉しそうに答えた。 「私が聞いた限りでは、大髻(おおたぶさ)の似合う人だったらしいの」 「おおたぶさ?」と私。 ほら、お相撲さんが結っている髪型よ」 明治三十八年の生まれの母が自分の祖父について話し始めた。 「普通より大きく結った大髻は力強く、その髪型のお祖父さんはずいぶんと粋だったらしいわ。 お洒落で美青年で相当もてたという話よ」 母は自慢げに言った。 私はというと、東映の映画館で上映される時代劇に登場する 片岡千恵蔵や月形龍之介を思っていた。 父方は馬賊。母の祖父は大たぶさに髪を結う人。 友達に言えるルーツではない。 数日後。我が家に安藤福衛がふらりとやってきた。 福衛は父の実家の跡をとる長男で私の従兄である。 従兄と言っても、私より二十四歳ほど年上で知識豊かな大人である。 私はこの時とばかりに訊いた。 「福衛さん。福衛さんのご先祖様のことを知っているかしら」 「まあね。母親から聞いたことぐらいだけれど。何で知りたいの?」 「お友達とルーツを話し合うことになっているから」 「そうだなぁ。僕のお祖父さんの嫁さん、つまり、御祖母さんが偉い嫁さんだったのさ」 「偉いって、どういうふうに偉かったの。大たぶさの花魁とか」 私は嫌な予感がした。 「相撲取りじゃあるまいし。そうだな。髷は立派だったと思うよ 「やはり。すると、馬に乗ってお嫁に来たとか!」 「いや。母さんが言うには、立派な駕籠に乗って来たらしいよ」 福衛さんの顔が引き締まった。 「下にぃー。下にぃーってね」 そのあと、福衛さんは声を低くして言った。 「仏間に座ったきりのお姫様で我が家は大変だったらしい。 「そんなお姫様がどうして?」 「明治維新って知ってるだろう?」 「武家社会が崩壊していくきっかけかな」 私は東映の時代劇で学んだ事を言っていた。 「だから、お姫様はそれなりの家柄に慌ただしく嫁に…という事かなァ」 私は馬賊でなかった…と思う私に福衛さんは行った。 「福衛と言う名は、そのお祖母さんが付けたらしいよ…」 山田とも子のつぶやきへ 戻る |