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―見晴らし通りー
大宮駅前の街頭映画会が終わった。
映画は原爆が落ちて苦しむ人々の映画だ。
「終わったら急いで帰ってくるのよ」と言った
母との約束を守るために私は『見晴らし通り』を走る。
家を目指し…
見晴らし湯を過ぎると自転車預かり店。
その出入口にはムービー大宮のポスターが貼ってある。
今週の写真はジェーン・ラッセル。
女優のの笑顔にはニキビのようなブツブツがある。
金色の髪と空色の瞳がきれいな女優なのに…
その原因を私は知っている。
張り付ける時の糊が悪い。水とうどん粉を丁寧にかき混ぜ、
弱い火にかけた後はブツブツとした固まりが消えるまで、
丁寧にかき混ぜなければならない。
糊の作り方は母が教えてくれた。
ポスターを貼るおじさんに糊の作り方を教えたところ、
「仕方ないのさ。糊の材料がうどん粉だからね」と、あっさり言った。
糊の作り方の他にも、おじさんに言いたいことがある。
「先週のポスターを剥がさないで次のポスターを重ね貼りするから、
きれいな女優さんの顔がゆがんでしまう。
叔父さんは美人を不美人に変えている。
夜の自転車預かり店は真っ暗だ。自転車が一台も無いからだ。
細長い真っ暗闇の突き当りに
オレンジ色の電気が小さく灯っている。
自転車預かり店の南隣は化粧品店。
私が髪留めリボンを買いに来る店だ。
綺麗な顔の店員さんは口紅と同じ色の赤いマニュキアを塗っている。
店員さんの話声は低く静かでゆっくりしている。
アメリカの女優のようだ。
「お嬢ちゃんにはこのリボンが良いわよ」と言われると
私は「うん」と頷く。
化粧品店の向かいは床屋。
その南隣は魚屋さん。
美人でアメリカ人のように明るく背の高いお姉さんが二人働いている。
二人のおかげで、お店はいつも大繁盛。
その向かいの『藪乃蕎麦屋』は店内の灯までお蕎麦色。
お蕎麦屋の南隣は広い空き地。
そこでは魚屋がアジやサンマの開きを干したり、
大人が富士山を眺めたり、子どもは縄跳びや、ビー玉遊びをする。
私は貨物列車で上野へ運ばれて行く牛や鶏に手を振る。
その時の私は、何故だかアメリカの女優と
『見晴らし通り』で働く美人のお姉さんたちの笑顔を思っている。
昭和26年
大宮駅東口で市内随一栄えていた商店街
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